大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所 昭和31年(行)4号 判決

原告 株式会社富永商店

被告 高松国税局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和三一年九月一八日付でした原告の昭和二七年度所得額を金三四万二、七〇〇円、昭和二八年度所得額を金二二万七、五〇〇円、昭和二九年度所得額を金一七万三、九〇〇円とする審査決定は、いずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め。

その請求原因として、一、原告会社は、肩書地において衣料品の販売業及びタクシー業を営む法人であり青色申告をしているものであるが松山税務署長が昭和三〇年一二月一〇日付で原告のした所得額確定申告につき昭和二七年度分四四万五、五〇〇円に、同二八年度分二四万一、〇〇〇円に、同二九年度分九五万二、三〇〇円とそれぞれ更正決定をしたので再調査の請求をしたが理由がないとして棄却され、更に審査の請求をしたところ被告において調査のうえ昭和三一年九月一八日付で右更正決定の一部を取消して原告の所得額を昭和二七年度分金三四万二、七〇〇円同二八年度分金二二万七、五〇〇円、同二九年度分金一七万三、九〇〇円とするとの審査決定をしその旨原告に通知をした。

しかしながら右審査決定は次のような違法があるから取消さるべきである。

被告が原告会社の経費中支出を認めないもののうち

(一)  昭和二七年度分における従業員富永ワカに支払つた給料金九万八、〇〇〇円、社長富永忠に支払つた旅費中、船内宿泊費金四万八、〇〇〇円、富永孝に支給した厚生費よりの補助金一万三、二〇〇〇円、合計一五万九、二〇〇円。

(二)  昭和二八年度分における従業員富永ワカに支払つた給料金八万四、〇〇〇円、社長富永忠に支給した旅費中船内宿泊費金三万九、〇〇〇円、富永イサエに支給した箱根における研究会出席の旅費金三万二、七二〇円、合計一五万五、七二〇円。

(三)  昭和二九年度分における従業員富永ワカに支払つた給料金八万四、〇〇〇円、社長富永忠に支給した旅費中船内宿泊費金六万〇、〇〇〇円、合計一四万四、〇〇〇円。

は、正当な支出であり、法人税法上いわゆる損金にあたるものであるに拘らずこれらを損金と認めないのは違法である、すなわち、

(一)  富永ワカに支給した給料について、

右ワカは原告会社代表取締役富永忠の義母であるが、同会社の従業員として業務に従事しておる者である、それで給料も昭和二七年四月より毎月九、〇〇〇円を支給していたが、同二七年九月一三日以降、同人名義で煙草小売販売の許可を受けたにより会社業務に従事の傍ら、煙草販売をするようになつたので爾後給料月七、〇〇〇円宛を支給しているのである。このように同人が仮令原告会社代表取締役の義母であつても原告会社の業務に従業する者である以上原告会社が相当給料を支給することは不当でない。

(二)  富永孝に支出した厚生費よりの補助について、

原告会社においては昭和二七年よりタクシー業を開始することとなつたが、専任の運転手を雇傭しては経費が嵩むので取締役富永孝を松山の自動車学校に入学させ運転免許状を得させ右タクシー営業に従事するに至らせたものである。それで原告会社から右資格取得のために要した学校の授業料在学中の食費、交通費等一万三、二〇〇円を補助したもので会社の厚生費として支出したことは何等不当でない。

(三)  富永忠に支給した旅費中船内宿泊費について、

原告会社所在地から取引関係の用務で京阪神へ出張するにはそれ等都市で宿泊するか、汽車、汽船で夜を過ごさなければならないのが普通であるから原告会社代表取締役富永忠が業務上京阪神への出張の際、その往復に汽船を利用し、船内で夜を過ごす次第である、又原告会社はさきに官庁、会社等の旅費規定を参考に旅費規程を定めておるからその規定に従い、船内宿泊にも宿泊料を支給したものである等一般の例によるものであり正当な支給であるから不当でない。

(四)  富永イサヱに支給した旅費について、

右イサヱは主として原告会社の衣料品等販売業務に従事しているものであるが昭和二九年二月一九日より同月二二日迄四日間にわたり箱根で開催された株式会社商業界主催の第七回商業経営ゼミナールに参加した旅費である右ゼミナールは原告会社のような営業や経営には甚だ有意義なものであるから業務に直接従業する右イサヱを参加させたものでありその結果得ること大なるものがあつたのでそれに要した費用を会社旅費とすることは当然で不当でない。

なお、被告が原告会社のこれら(1)乃至(4)の支出を認めながら課税所得計算上損金に認めないのはその権限を逸脱し、原告会社経営の内部にまで立入り会社の経理をするに等しくそれは経営権を侵害する結果をもたらすもので不当である。

かような次第であるから、原告会社の所得額は被告のした審査決定は該決定の額より更に右金額を控除した額すなわち(1)昭和二七年度分一八万三、五〇〇円、(2)昭和二八年度分七万一、七八〇円(3)昭和二九年度分三万一、九〇〇円をもつて正当とし、それを超える部分につき違法であるから取消を求める。

被告の主張に対し原告会社のようないわゆる同族会社においては支払つた個々の給料、旅費についてのみ当否の判断すべきでなく俸給、賞与、旅費、その他及びこれが支給人員をも斟酌してその支給総額を考慮したうえ決定しなければならない。そして、原告会社における富永忠、同イサヱ、同ワカの給料合計額は、昭和二七年三月三一日現在月合計三万一、〇〇〇円、昭和二八年三月三一日現在月合計二万九、〇〇〇円であり一家の必要経費を賄うのにはむしろ少い。従つて富永ワカの給料を認められないならば他の二名の給料を増額しなければならないことになるのである。次に富永忠が旅費の余剰三〇万円位貯蓄しているとしても、それだけで同人に対する宿泊料を否認する事由とならない、又被告の予備的主張について、個人営業を法人しかも同族会社の組織にして営業する場合その同族会社は個人経営時の従業員関係を当然引継がなければならぬから、前従業員に対する退職金の支出は止むを得ないものでありかかる主張は理由がない。と述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め。

答弁として一、請求原因事実中冒頭より被告の審査決定までの但しタクシー営業は昭和二八年一月から始めたものである事実はこれを認めるがその他の点は否認する。被告が原告の所得額を右審査決定のようにした理由は以下述べるとおりであつて何等違法の点はない。原告会社は、代表取締役富永忠及びその父母等が愛媛県温泉郡中島町で数十年来営んで来た同町切つての老舖たる衣料品等販売業を昭和二六年三月二六日株式会社営業に組織変更をしたものである、従つてその代表取締役富永忠及びその親族(忠の父母、妻、弟)がその株式金額の大部分(八六、六%)を所有する法人税法第七条の二(同族会社の定義)の規定に該当する同族会社である。ところで原告会社が損金性を主張する

(一)  株主富永ワカに支給した給料について、

被告が該給料を原告会社の課税所得計算上損金に認めなかつたのは、富永忠の家族構成が本人、妻イサヱ、養子(小児)及び養母ワカの四人であり、そのほか富永忠の実弟で原告会社の取締役である富永孝も食事をともにしているのであるが、別に女中を雇つていないため、ワカが家事一切を担当していた、しかも昭和二七年九月一三日よりワカ名義で原告会社と関係のない煙草小売業を始めるに至つたこと等からみて、原告会社より毎月給料の支給を受けるに価するほど会社業務に従事する余地のないことが明らかである。尤もワカが原告会社の業務多忙のときは、その顧客に若干の応対をするようなことがあるとしても、原告会社のような個人企業に等しい同族会社においてはワカが家事に従事しているときは、原告会社の役員又は従業員が、煙草の小売に従事するのみならず煙草の仕入、計算それに関する報告等も専ら富永忠が当つているうえ原告会社は賃借している店舖の一部に煙草売場を設けさせながら無償で使用させ、その売場で使用の電灯料も負担していること等双方のそれ等行為や負担は相殺されるべき実情、性質のものと云うべき関係があるのである。仮にワカの労務提供に報いるため報酬を支給するとしても年額一〇、〇〇〇円限度を雑給名義で支給するにとどめるべきが相当である。以上諸事情に徴すればワカに対する給料は、税務計算上過大給与と云うべく、従つてそれを認めることは、原告会社の法人税の負担を不当に減少させる結果になるので法人税法第三一条の三の規定によりその計算を否認し、課税上損金に算入しなかつたものであつて何ら違法でない。

(二)  富永孝に支出した厚生費よりの補助について、

原告会社取締役富永孝が自動車運転免許の資格を得る動機が原告会社においてタクシー営業を開始するためであつたとしても右資格は同人の一身に帰属するものであり、右タクシー業に同人を運転手としなければならぬ特段の理由もない。又右支出は定款の(タクシー開業による目的)変更前である昭和二八年三月九日なされてある等前示税法の規定により当該支出を原告会社の課税所得計算上損金に算入すべきものでない。しかも同人は原告会社の役員であるから右支出は同人に対する利益処分による賞与と認めざるを得ないものである。従つてこれを損金として認めなかつたものであつて何ら違法でない。

(三)  富永忠に支給した旅費中船内宿泊費について、

代表取締役富永忠に支給した旅費が原告会社の旅費規定によるものでも原告会社のような個人会社に等しい同族会社にあつては、どのような規定を定めることも可能であることからして、当該支出旅費を損金として認めるためには、それが原告会社の営業規模、業積、業態等からみて、原告会社の業務遂行上通常かつ必要なものであることを要する。ところで係争年度中富永忠に支給した旅費総額は六〇万四千余円であるがその内三〇万円程度剰余ができたとして富永忠及び家族等の個人名義で銀行預金をしていたような事情から考えると右規定による旅費額が実費を上廻るのみならず、原告会社の業務遂行上必要な額を超えているものというべきであるから法人税法第三一条の三の規定によりそれを否認するため該旅費中船内宿泊費を原告会社の課税所得計算上損金に算入しなかつたもので何ら違法でない。

(四)  富永イサヱに支給した旅費について、

右イサヱは原告会社代表取締役富永忠の妻であり、株主、従業員であるが同人に対する昭和二八年四月二四日仕入及び商品研究のため、大阪、京都方面えの出張旅費一万六、九〇〇円及び昭和二九年二月二五日大阪、京都方面及び箱根えの出張旅費一万五、八三〇円支給は、右イサヱの単独出張でなくその夫たる代表取締役富永忠に伴われて出張したものであり、しかもイサヱは昭和二七年及び昭和二九年各事業年度において単独、同伴でもこのような出張をしていないこと、代表取締役富永忠に経営能力の欠如があると認められないし取締役富永義彦が仕入の補佐を担当しているにもかゝわらず責任者でないイサヱがその夫である代表取締役に伴われて旅行し、しかも代表取締役と同額の旅費を受ける等のことは原告会社が同族会社であると云いながら事実上その代表取締役富永忠の個人事業に等しいためなされたもので、通常且つ必要なる経費とは認められないので、法人税法第三一条の三の規定により否認し課税計算上損金に認めなかつたものであつて何ら違法でない。

二、(被告の予備的主張)原告会社は前掲諸支出のほか会社業務に従事する能力なく事実上業務に従事していなかつた玉井セイに対し係争年度における給料及び賞与として一四万六、五〇〇円(昭和二十七事業年度分給料七万四、〇〇〇円、昭和二十八事業年度分給料六〇、〇〇〇円、賞与七、五〇〇円、昭和二十九事業年度分給料五、〇〇〇円)を支出しているがそれは右玉井セイが富永孝の義父時代から個人企業たる富永商店時代販売員として三十余年勤続したものであるからその功に報ゆるためのものであり従つて退職金的な性質を有するものと云うべきである。だからそれは富永孝個人が負担すべき性質のものであるから原告会社の課税所得計算上損金に認められない支出であつて原告会社の損金と認められるべきものではない。よつて仮りに前示彼告主張中認められないものがあるとしても右玉井に対する給料、賞与一四万六、五〇〇円の限度においては審査決定に不当はないと云うべきでもある。と述べた。

(立証省略)

理由

原告会社が衣料品等販売業を営んでいたが昭和二八年一月からタクシー業をも営むに至つたものであり税法により承認されたいわゆる青色申告者である。ところで原告会社が昭和二七、二八、二九年度の所得額に関し主張のような申告をしたにつき松山税務署長が主張のような更正決定をし、又それに対する再調査の請求も理由がないとして棄却した、それで更に審査の請求をし調査の結果被告において原告主張の日右更正決定の一部を取消し、原告の所得額を原告の主張のとおりとする審査決定をしたことは当事者間に争がない。

原告会社は右審査決定において原告会社の支出した経費のうち、富永ワカに支給した給料、富永孝に支給した厚生費よりの補助、富永忠に支給した旅費中船内宿泊費、富永イサヱに支給した旅費を損金と認めなかつた違法があると云うものであるところ被告は原告主張の支出を争うものでなく原告会社は税法上いわゆる同族会社に当るものであるがそれ等支出を損金と認めるにおいては税の負担を不当に減少させる結果となる一の事実が認められるので法人税法三一条の三により課税計算上政府の認めるところに従い該支出を否認したものであり何等違法はないと主張するので審按する。原告会社は昭和二六年三月二六日その代表取締役富永忠及びその父母等が愛媛県温泉郡中島町で数十年来営んでいた同町切つての老舖たる衣料品等販売をする個人企業を株式会社として営業するため組織変更をするに至つたものでありその資本の額は一八〇万円で代表取締役富永忠及びその父母、妻、弟等が株式金額の大部分(八六、六%)を所有しているものであるから法人税法七条の二に該るいわゆる同族会社であることは当事者間に争いがない。ところで、

(1)  富永ワカに支給した給料について、

成立に争のない乙第一号証、証人一色利夫の証言により真正に成立したと認められる乙第三号証の五、第五号証の四、第七号証の五、証人松成宇平の証言により真正に成立したと認められる乙第八号証の四、第九号証の三、第一〇号証の四に証人富永孝、同富永ワカ、同一色利夫の各証言及び原告代表者富永忠本人尋問の結果を綜合すれば、原告会社の代表取締役富永忠の家族関係と日常の生活状況等は被告主張のとおりであるが、妻イサヱが会社業務に従事しておるので食事の準備、その他の家事は専らワカが一切を担つていた、のみならずワカが主張の頃から主張のように煙草小売業を始めるに至つてからはその年間仕入が六〇ないし七〇万円、その売上が七〇ないし八〇万円(一日平均七、八〇個)にのぼり相当繁忙な状況であつたことが認められる。しかも右ワカが会社業務繁忙の際それを手伝つたこともあろうことを想像されないではないけれども他方被告主張のとおり煙草売場が会社店舖内に設けられている関係上ワカが家事に従事中の煙草販売は会社の従業員等が当り煙草の仕入及び計算それに関する報告等は主として富永忠がし又原告会社は右煙草売場も無償で使用させ該売場の電灯もその料金を会社において支払つていることも窺われ、他にこれを覆すに足る証拠がない。そうするとワカは原告主張のような給料を支給しなければならぬ程会社業務に従事しているとは云い難い、しかも被告主張の如く原告会社にも前判示のとおり、ワカの業務の手伝いをしたり売場や電灯を無償で使用させていたりする等双方の行為や負担は事実上いわゆる相殺されるべき実情と云うべき関係があるのである。従つて右ワカに支給した給料を損金とする計算を認めるならば、法人税の負担を不当に減少させる結果になること明らかと云うべきである。

(2)  富永孝に支給した厚生費よりの補助について、

この補助はたとへ原告主張のような事由によるものであつても資格は被告主張のように富永孝個人に帰属するものであること論を要しないところであり従つて該資格取得のため行動するは全く同人の個人的な事情に過ぎないと云うべきである。しかも富永孝は原告会社の取締役であるから、同人に支給した前記補助はむしろ同人に対する利益処分による賞与と解するを相当とするのでそれを損金に認めることは法人税の負担を不当に減少させる結果となること明らかと云うべきである。

(3)  富永忠に支給した旅費中船内宿泊費について、

原告会社の代表者富永忠が会社業務遂行のためその本店所在地から京阪神方面出張には宿泊しなければならないのが普通である、従つてその往復に船便を利用した際船内において夜を過ごし旅館等につかないからと云うて船内宿泊料の支給を否認するのであれば汽車中で夜を過ごしたようなときでも同様に扱わなければならないのに比べると不当ないしは違法と云わなければならない、けれども成立に争ない甲第四号証の一、二、乙第二号証の三、第四号証の三、第六号証の三、第一二号証の一ないし六、証人松成宇平の証言により真正に成立したものと認められる乙第八号証の六、第九号証の四、第一〇号証の四及び証人松成宇平の証言並びに原告代表者本人尋問の結果を綜合すれば、原告会社はその設立当初より旅費規程を設け出張地を甲地(京阪神、東京方面)、乙地(中国九州方面)、丙地(松山市その他本店周辺)に区分し、それに対応する車馬賃(甲地乙地二等運賃、丙地実費)宿泊料(甲地一、五〇〇円、乙地一、二〇〇円、丙地一、〇〇〇円)日当(甲地八〇〇円、乙地六〇〇円、丙地四〇〇円)を支給する旨定めておる、ところで原告会社代表取締役富永忠の旅費もその規定に基いて支給されたものであるが他方、被告主張のように、原告会社が係争年度中、富永忠に支出した旅費の総額は六〇万四千余円であるが内約三〇万円程度の剰余ができたので、それを富永忠及び家族等の個人名義で銀行預金をしていることが認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。しかして会社その他の団体の経費殊に旅費等は被告主張のとおり当該会社等の規模、業態及び業績その他の諸状況からみて当該会社等の業務遂行上通常かつ必要なものであると一般に観られる程度のものでなければならないと解すべきである。このような観点から右事実を考察すれば前示旅費規程の定める支給額は実費を上廻るものである、しかも前認定の諸事情に徴すれば、支給した旅費の内昭和二七年度分四万八、〇〇〇円、同二八年度分三万九、〇〇〇円、同二九年度分六〇、〇〇〇円については原告会社の業務遂行上通常かつ必要と観られないとするを相当とすべきであろう。従つて掲記の額を損金と認めることは税の負担を不当に減少させる結果となると云うべきである(実質上このような趣旨で否認したのを船内宿泊費と表現したものに過ぎないことが明らかである)。

(4)  富永イサヱに支給した旅費について、

成立に争いのない乙第一号証、第一二号証の一ないし六、及び証人松成宇平の証言、証人富永イサヱの証言並びに原告会社代表者本人尋問の結果の各一部を綜合すれば、富永イサヱは専ら原告会社の衣料品等販売関係を担当する従業員でありその仕入関係は代表者富永忠及び富永義彦が担当するものである。しかも右イサヱが昭和二七事業年度並びに同二九事業年度は素より同二八事業年度においても問題とされた旅行以外に出張していないので同人は仕入等につき何等関与しておらないことを推測させられるに拘らず、右イサヱが代表取締役富永忠の妻であり、問題の旅行が夫忠に伴われたものであること及び右忠が他に仕入その他のためその担当者その他の者を同行したようなこともないことをも認められる。原告は問題の旅行中仕入のための分は特に女物服地仕入及び商品の研究のため女性の同伴が必要であつた、又ゼミナールの分は雑誌社主催のもので原告会社の経営営業上甚だ有意義なものであつたから代表取締役の外当時販売部門を担当していたイサヱをも出席させる必要があつたものであり、その結果業績が振興するに至つたと主張しそれに副うような証人富永イサヱの証言及び原告会社代表者本人尋問の結果がないではないが、たやすく信用し難く従つて原告主張の特段の理由を証するに足るものがない。しかして右認定事実、原告会社の規模、業態及び業績その他の事情に徴すると、イサヱの右旅行は一般に原告会社の業務遂行上通常かつ必要なものであるとは云い難いものであるからその旅費を損金に認めれば法人税の負担を不当に減少させる結果となること明らかと云うべきである。

そうすると原告の云う計算支出は被告主張の法条に則り被告において課税計算上これを否認し得べき筋合のものと云うべきである。

然るに原告は、被告の右法条による否認はその経営権を侵害するの違法があると主張するけれども右否認は、法人税法第三一条の三の規定により被告が同族会社たる原告会社の計算につき課税計算上認めないとしたものに過ぎず原告のした支出自体までも否定する趣旨のものでないこと前段判示により明らかであり原告の経営又は営業上の行為すなわち右支出を事実上否定したり法律上無効視する等規整するものでない。従つて何等経営上の権利行動に影響を及ぼすものでないことが明らかであるから右主張は理由がない。

以上のとおりであるから(爾余の点につき判断するまでもなく)被告の審査決定において主張の法条に則り原告の前示計算支出を課税計算上否認したにつき何等違法はなく、従つてこれを違法として該審査決定の取消を求める原告の本件請求は失当として棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 太田元 坂上弘 長西英三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例